02. 09:51


 賑やかな朝食が済み、後片付けやら溜まっていた洗濯物を洗っていたらもう予定していた時間が刻々と近づいている。クロウはブラックバードのヘルメットを片手で拾い上げて、立ち上がる。今日はいつもの黄色いジャケットを羽織らない。

「あれ、クロウ。出かけるの?」

 いつものようになにやら機材を弄っていたブルーノが振り返る。それに釣られるように、パソコンでの調整をしていた遊星もクロウを省みた。

「おう、ちょっくら出かけてくる」
「そうか。暗くなる前には帰ってくるんだぞ、クロウ」
「俺はガキかよ……」

 口調自体はそっけないが、まるで母親のような遊星の言葉にクロウは思わず苦笑する。それと同時に、マーサハウスにいたころから遊星は何かと心配性であった。そんな遊星に幼いころは甘えてばっかりであった幼少時代を思い出すと、クロウは未だに恥ずかしくなる。夜中にトイレにいけなくて、寝ていた遊星を起こしてついて来てもらったことなど今となっては噴飯ものだ。これから行くところで、それをマーサが掘り返さないことをクロウは祈るばかりだ。

「マーサによろしくと伝えてくれ」
「わかった」
「じゃあ、僕にはお土産よろしくね!」
「なんでそうなんだよ」

 ブルーノの軽口にクロウがすかさず突っ込みをいれる。もし、ここにジャックがいればまたブルーノ頭に拳が飛んできたのだろうが、あいにくジャックは外出していた。おそらく、また向かいの喫茶店でコーヒーでも飲みなおしているのだろう。無駄遣いは確かに好ましくはないが、昔のようにバカ高い物は頼まなくなっただけ進歩だとクロウは思うことにしている。

「じゃあ、いってくるな。洗濯だけ取り込んで畳んでくれ」
「クロウ」
「ん?」

 ヘルメットをかぶり、ブラックバードへ向かうクロウを再び呼び止める遊星。クロウがそれに振り返れば、遊星は小さく微笑み、軽くこぶしを上げる。

「気をつけてな」
「……おう!」

 それに呼応するようにクロウも同じように拳を上げると、満面の笑みで遊星の拳と宙で交じらわせた。



 そして、今度こそ、ブラックバードにまたがるとエンジンをふかしてガレージを後にした。