03. 11:10


 クロウがマーサハウスの脇にブラックバードを停めていると、それを待ち構えていたのかのように子供たちが次々とドアからこちらにやってくる。

「クロウ兄ちゃん!」
「クロウ兄ちゃん、おかえり!!」
「おう、お前らも元気そうだな」

 次々と自分のの周りに集まってくる子供たちの頭を一人ひとり撫でながら、クロウは優しく微笑む。子供たちがおかえりという言葉を言ってくれるたびに、ここが自分の帰る場所なのだとクロウは深く実感する。

「ねー、クロウ兄ちゃん! デュエルしてよー!! 俺、新しくデッキ作ったんだ!」
「えー! 駄目だよ、クロウ兄ちゃんはわたしたちと遊ぶの!!」
「なんだよ、クロウ兄ちゃん独り占めすんなよ!!」
「独り占めしてるのは、そっちじゃない!」

 いつの間にか、クロウの腕を引っ張り合って言い争いをはじめた子供たち。それを咎める前に、「クロウ兄ちゃんはどっちと遊ぶの!?」と詰め寄られてしまい、クロウは瞬間言葉を失う。だが、少しだけ間をおいたあと、腕を引っ張る子供たちの背中を軽く叩くとその場にしゃがみこんで二人を抱き寄せる。

「喧嘩すんなって。心配しなくても、クロウ兄ちゃんはみんなと遊んでやっから」

 本当?と首をかしげる子供たちに、クロウはにかっと歯を見せて笑ってみせる。

「俺が今まで、お前らに嘘ついたことあるか?」

 そして、クロウがもう一度子供たちの頭を撫でてやれば、すぐに子供たちにも笑顔が戻ってきた。その後、遊ぶ順番をじゃんけんで決め始める子供たちの姿にクロウがほっとしていると、少し離れたところから第三者の声が響く。

「お前たちー! お昼の準備手伝っとくれー!!」

 マーサの呼ぶ声に子供たちは口々に返事をすると、クロウの元から離れて家の中へと戻っていく。クロウもそのあとをついていき、玄関に立っていたマーサに軽く手を上げた。

「おや、おかえりクロウ」
「あぁ、久しぶり。マーサ」

 久しぶりというほど、会っていないわけではないのだがどうにも照れくさくてクロウはいつもマーサにそういってしまう。一時は疎遠になっていたものの、それでもマーサはクロウの母親同然の女性であることは変わらない。

「今日はジャックと遊星はいないんだね」
「あー、今日は俺だけ予定あいちまったからさ」
「そうかい。また、三人でいつでもおいで。ここはお前たちの家でもあるんだからね」
「……んん」

 ぽんぽんとマーサに優しく背中を叩かれ、クロウは恥ずかしさから生返事を返す。そらした顔が真っ赤であることをマーサはあえて触れないでやる。

「ほら、あんたもお昼食べてくだろ?」
「もちろん! マーサの飯、久しぶりだぜ!」
「代わりにちゃんと手伝うんだよ」
「えー、マジかよぉ」

 子供のように文句を言えば、マーサに今度は強く背中を叩かれ、クロウはその衝撃によろけつつも家の中に入った。