06. 18:45
クロウがポッポタイムに戻り、ブラックバードをガレージに納めている最中、ふと見慣れぬダンボール箱が床の上に置いてあるのに気がつく。子供ならばすんなり入れそうなほどの大きさのその箱に貼ってある伝票はクロウの経営するブラックバードデリバリーのものではない。不審に思ったクロウはまだパソコンと向かい合ったままであった遊星に尋ねた。
「なぁ遊星。この箱、何だ?」
「お前宛だ。手紙もきている」
遊星はこちらを振り向くことなく、デスクに置いたままであった手紙をクロウに手渡す。質素で飾り気のない茶色の洋封筒の表面には確かにクロウ・ホーガンと宛名が書かれている。そして、何気なく封筒を裏返したクロウは驚きのあまり息を詰まらせた。
そして、すぐさま封を破ったクロウは中にあった便箋を広げると大げさなほど顔近づけて読み始める。中の文字も、内容も、彼らしい律儀なものであった。
何度か繰り返して黙読したクロウは、その後、便箋を胸のあたりまで下ろすと感嘆の意味で深く息を吐いた。
「本っ当に、律儀っていうか、生真面目って言うか……」
「ボマーから、なんだったんだ?」
ようやく一息ついたらしい遊星が、クロウのほうを向き直り話しかける。手紙と箱を受け取った時点で、誰からかは分かっていたがあえてクロウが読み終えるまで遊星は言わないでいたのだ。
クロウはもう一度便箋に視線を落とし、また小さく息を吐く。
「あん時は悪かったって言うのと、今は元気にやってるってさ」
手紙を読み上げるにはなにか申し訳なく思えたクロウは、手紙の要点だけをかいつまんで遊星に伝える。
ボマーとクロウはダーグシグナーとの戦いのあと、一度だけ顔を合わせる機会があった。ボマーも他のダークシグナーと同様、そのときの記憶が抜け落ちている状態ではあったが、ぼんやりとクロウのことは覚えていたらしい。申し訳ないことをしてしまった、開口一番にそう謝られクロウのほうが慌ててしまったことを自分自身よく覚えている。クロウとて、あのときはボマーと同じ復讐心に駆られデュエルをしていたのだから一方的に謝られる立場ではない。それに、ボマーは最後にクロウを庇って瓦礫の中に沈んだのだ、むしろ自分ほうこそが謝るべきなのではないか。そうクロウは思ったのだが、むやみにダークシグナーであったときの記憶を引き出すべきではないとクロウはその口を閉じた。
だが、ボマーが故郷の妹や弟たちと元気にやっているという報告を実際こうして耳にすると、これでよかったのだとクロウの気持ちも自然と晴れていく。手紙に同封されていた写真も今のボマーの幸せを如実に語っていた。クロウは丁寧にその手紙を封筒に戻すと、自分の懐にしまい込んだ。
「そうだ、箱のほう開けてみようぜ! なんか、ボマーの故郷の特産物らしいぜ!」
しんみりとした気分を紛らわすように、クロウはそう言うと嬉々として箱のガムテープを勢いよく剥がした。特産物というからには、おそらく食べ物であろう。再三言うように、万年赤字であるクロウたちには食費を浮かせることができる嬉しい贈り物である。
そして、遊星とともに箱の中を覗き込んだクロウはしばしの間絶句することになる。
「うえ……」
「これは……」
そこに入っていたのはダンボール箱いっぱいに敷き詰められたジャガイモの山。まだ土がついたままのものが多いそれは、男4人で消費してもかなりの労力を費やしそうなくらいの量はありそうだ。
「……とりあえず、今晩はふかし芋だな」
二人はどちらともなく、そんなことを呟いた。
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